独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2008年4月25日


神経管形成の舞台におけるShroomの新しい相方はROCK

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胚の発生過程では一つの受精卵が分裂・増殖を繰り返し様々に形や位置を変え、神経や内臓など各器官へと分化していく。それぞれの器官の形成には、適切な細胞群が適切な場所に移動して、更に次の段階への分化が誘導される。胚の発生とは、このように細胞が集団として形を変え、組織、器官を形成していく過程の連続である。こうして体の器官が形成されていく中で、神経管形成と呼ばれるイベントがある。神経管形成とは将来の中枢神経系の基になる構造を作るためのもので、胚の頭頂部背側で左右の周囲が盛り上がって溝を作り、管(神経管)を形成する。ここで出来た神経管は最終的に中枢神経系と末梢神経系に分化する。

神経管形成に関係し機能を持つ分子として様々な遺伝子が同定されており、ここに挙げるアクチン結合タンパクShroomもその一つとして知られていた。しかしShroomがどのように神経管形成に関わるのか、細胞内でどのような機能と役割を持つのか未だ不明の部分が多い。

今回、理研CDB高次構造形成研究グループ(竹市雅俊グループディレクター)西村研究員は、Shroomファミリーの一つであるShroom3が、細胞骨格・形態を制御するRho kinaseに直接結合して、神経管形成における細胞構築や形態の変化に関与していることを明らかにした。この研究成果はDevelopment誌4月号に掲載された。

Shroom3は神経管形成不全のマウス変異体の原因遺伝子として発見され(神経管形成が起らないマウスの頭部がキノコ/mushroomの様な形態をなすのでこの名前が付いた)、細胞骨格を形成するアクチンに結合するドメインを持つ。Shroom3は神経管形成の際に発現が確認されており、神経上皮細胞の形態変化に重要な役割を持つことが示唆されていたが、その作用メカニズムに関しては未だ不明であった。

まずShroom3が細胞内でどのような分子と関連してその機能するのか、Shroom3に結合するたんぱく質をスクリーニングした。その結果、Rhoによって活性化され細胞骨格の調節に関わるRho kinase(ROCK)を同定した。さらに培養細胞においてShroom3が頂端部側の細胞間接着部位にROCKと共に局在していることを明らかにした。Shroom3とROCKの相互作用を阻害すると、ROCKは細胞間接着部位に局在せず、ROCKの基質でアクチン収縮を促進するミオシン軽鎖のリン酸化も見られないことが解った。

このShroom3とROCKの結合が胚発生に如何なる影響を与えるのかを、ニワトリ初期胚を用いて解析した。Shroom3とROCKは、神経管の内腔側の細胞間接着部位に共局在していた。そして神経管でShroom3の発現を抑制すると、ROCKは神経管の内腔側に局在しなくなり、神経管の形成不全がおこった。神経管の細胞層を内腔側から観察したところ、細胞群がバラの花びらの様な集合パターン(ロゼット)を形成していることが解った。またミオシン軽鎖のリン酸化を調べると、ロゼットの中心、または神経管の長軸と直交する方向に分布していた。これらの観察から、細胞群は管を正しく形成するために、一定の方向性をもって収縮していることが示唆された。ShroomとROCKの結合を阻害すると、神経上皮細胞のロゼットパターンは観察されず、ミオシン軽鎖の方向性を持ったリン酸化も消失した。

Shroom3を発現すると、頂端部側の細胞間接着部位にROCKと共に局在するが、Shroomの変異体を発現すると、前述のROCKの局在はなくなる。また、変異体を発現した細胞では細胞間接着部位の張りが失われている。

神経管形成では管を形成するために胚頭部の細胞群が形態変化しつつ移動していく。このときそれぞれの細胞内では、細胞骨格系のたんぱく質がダイナミックに組織編成されている。ROCKはこの細胞骨格を形成する分子に作用して、神経管形成時の細胞の形態制御に関与していると考えられる。今回西村研究員の結果から、Shroom3はROCKと結合して細胞間接着部位に局在し、ミオシンやアクチンなど細胞骨格系の制御を通して形態形成に関与していることが示唆された。西村研究員は「神経管形成をはじめ、細胞群が変形し組織・器官を形成するメカニズムには不明の部分が多い。Shroomは、細胞層が極性をもって組織を形成していく分子メカニズムやシステムを明らかにしていく上で、非常に興味ある分子の一つ。」と語る。

 

掲載された論文

http://dev.biologists.org/cgi/content/abstract/135/8/1493




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