独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター

2011年2月16日


小胞輸送の動的平衡が細胞伸長を促す
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遺伝子の中には1つの機能だけではなく、2足、3足のわらじを履くものも少なくない。限られた数の遺伝子でより多様な機能を担い、複雑な体をつくりあげるための工夫だと思われる。IKK(inhibitor of nuclear factor-κB kinase)と呼ばれるリン酸化酵素もその一つで、免疫系やガン形成、細胞分化など多様な場面で機能している。近年、ショウジョウバエがもつIKKεが細胞骨格や細胞形態を調節していることが示されているが(科学ニュース:2006.8.17)、その詳細なメカニズムは明らかでなかった。

理研CDBの大谷哲久研究員(形態形成シグナル研究グループ、林茂生グループディレクター)らは、ショウジョウバエの剛毛細胞をモデルにした研究で、IKKεが細胞の先端で小胞の輸送方向を調節し、細胞伸長を促進していることを明らかにした。この研究は理研CDBの電子顕微鏡解析室、プロテオミクス解析室との共同で行われ、2月15日号のDevelopmental Cell誌に掲載されている。


活性化されたIKKε(紫)は伸長中の剛毛細胞の先端に局在する。
アクチン繊維(緑)は長軸に沿って束を形成する。


剛毛はショウジョウバエの感覚器官の一つで、機械的な刺激を感知する機能をもつ。剛毛の一本一本はそれぞれ単一の細胞が伸長することでつくられる。これまでの研究で、IKKεが細胞伸長に関与していることが示されていた。大谷研究員らはまず、IKKεを過剰発現させると剛毛伸長が促進されること、逆にIKKεを抑制すると剛毛伸長に異常が生じることを確認し、また、活性化型のIKKεが細胞の先端に局在することを明らかにした。

次に、剛毛細胞の細胞骨格を調べたところ、IKKεの変異体ではアクチン繊維の束が正常に形成されず、細胞表層との接続を欠いているものが多く見られた。電子顕微鏡で詳しく解析すると、微小管の配向は概ね正常だったが、小胞が細胞内に異常に蓄積していることがわかった。小胞は微小管をレールとして細胞の基部から先端へ、先端から基部へと輸送され、物質の運搬や細胞膜の形成を担う。小胞の基部−先端の行き来では通常動的平衡が保たれているが、IKKεの変異はそのバランスに影響を与えているようだった。

【ムービー】伸長中の剛毛細胞におけるGFP-Rab11(小胞マーカー)の動き。

 

彼らは続く一連の実験により、IKKεは小胞マーカーであるRab11の局在を制御していること、さらに、Nufと呼ばれる分子をリン酸化して抑制することを明らかにした。Nufは、微小管に結合して小胞などの運搬を担うダイニンと、Rab11とをつなぐアダプター分子だ。これらの結果は、IKKεが剛毛細胞の先端で小胞を運搬装置からいったん下ろし、帰りのレールへの積み替えを促していることを示唆していた。また、培養細胞を用いた実験は、哺乳類でもIKKεの小胞輸送に対する機能が保存されていることを示唆していた。

一方、アクチン束の形成異常と小胞の局在異常の間にはどのような関係があるのだろうか。彼らはこれらの異常が起こる順序を調べ、小胞の局在異常がアクチンの形成異常よりも前に起きていることを見出した。また、アクチン束の形成を阻害しても小胞局在に異常が生じないことからも、IKKεによる小胞輸送の制御はアクチン束の形成とは独立していることが示された。

林グループディレクターは、「小胞輸送は物質の運搬だけでなく、シグナル伝達にも関与していることが知られています。IKKεの下流因子を明らかにすることで、形態形成や自然免疫、ガン形成における小胞輸送の新たな機能が明らかになるかも知れません」と話す。



掲載された論文

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=P
ubMed&dopt=Citation&list_uids=21316589

 
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