独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2006年10月31日


カドヘリンが樹状突起の形態形成とシナプス形成に機能

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理研CDBの田辺光志ジュニアリサーチアソシエイト(高次構造研究グループ::竹市雅俊グループディレクター、フロンティア研究システム中川独立主幹研究ユニット:中川真一Ph.D.)らは、ニワトリの網膜発生を題材にした研究で、カドヘリンが樹状突起の形態とシナプスの形成に機能していることを明らかにした。脊椎動物の生体内で同様の結果が示されたのはこれが初めて。カドヘリンの機能を欠損した網膜の水平細胞では、樹状突起の伸張領域が縮小する、正常なシナプスを形成できないなどの異常が見られた。この研究成果は、Development誌の10月15日号に掲載された。なお、田辺氏は現在、理研CDB体軸形成研究チーム(日比正彦チームリーダー)に所属。

ニワトリ網膜の水平細胞でN-カドヘリンの機能を優位抑制型(dominant negative)で阻害すると、樹状突起の伸張が抑制され、突起末端の形態も異常になる(右上)。N-カドヘリンを阻害すると、シナプス後末端におけるGluR4の蓄積も抑制されることから(右下)、シナプス形成にも異常を生じていることが分かる。(左列はいずれもコントロール)

カドヘリンは細胞膜に発現するタンパク質で、同種のカドヘリンと結合することで、細胞同士の選別と接着に働くことが知られる。そのため、組織形成や形態形成のさまざまなステップで重要な役割を果たし、多細胞生物の根幹を支える分子の一つと言える。ショウジョウバエや培養細胞を用いた近年の研究では、神経細胞から伸びる樹状突起の特異的な投射やシナプスの安定性にも関与していることが示されていた。しかし、生きた脊椎動物の神経系におけるカドヘリンの機能については、実験技術上の問題から、十分な知見が得られていなかった。

田辺らはまず、生きたニワトリ胚の網膜において、少数の細胞で条件的に外来遺伝子を発現させる遺伝子導入法を開発し、網膜の水平細胞を細胞膜結合型EGFP(mEGFP)によって、単一細胞の解像度で可視化することに成功した。すると、発生後期の胚においては、水平細胞は形態的に異なる3つのサブタイプに分類され、それぞれが外網状層の異なる領域に投射していることが分かった。

次に彼らは、mEGFPに加えてN-カドヘリンの優位抑制型(dominant negative)を発現させ、内在性のカドヘリンの機能を阻害した際の水平細胞の形態変化を観察した。その結果、3種類の水平細胞のいずれにおいても、樹状突起の伸張範囲が縮小していることが分かった。対照的に、軸索の伸張に異常は見られなかった。樹状突起への影響をさらに詳しく調べると、突起末端の形態にも異常が見つかった。また、この形態異常が比較的小さな場合でも、後シナプスマーカーであるGluR4の蓄積が減少しており、シナプス形成にも異常を生じていることが示唆された。このように、樹状突起の形態やシナプスの形成に異常がみられる一方で、水平細胞の投射位置はいずれも正常だった。

これらの結果から彼らは、カドヘリンは水平細胞の形態と機能に2つの異なるステップで関与すると考えている。樹状突起が伸張する段階と、続いてシナプスを形成する段階だ。前者では、カドヘリンが樹状突起と周囲の細胞との接着を促進し、伸張の足場として働くことが予想される。後者では、細胞間接着の一種であるシナプスの構造そのものが、カドヘリンによって安定化されると考えられる。しかし、樹状突起の安定性とシナプスの安定性は相互に依存していることが予想され、より詳細なカドヘリン機能の解明が待たれる。



掲載された論文 http://dev.biologists.org/cgi/content/abstract/133/20/4085

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