独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター
2007年8月30日


神経回路形成にOLプロトカドヘリンが機能

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運動、思考、記憶など様々な神経活動を行う脳は、神経回路が正しく配線されることによって初めて機能する。しかし、神経細胞がどのようにして軸索を正しい位置に投射し、別の神経細胞とシナプスを形成するのか、そのメカニズムの詳細は分かっていない。

一方、カドヘリンは細胞同士を結びつける接着分子として1980年代に竹市雅俊(現発生・再生科学総合研究センター センター長)らによって発見された。細胞表面に発現したカドヘリンが同じ種類のカドヘリンと結合することで、細胞の組織化が起こる。そのため、多細胞生物成立の根幹を担う分子といえるが、近年では、シナプス形成や癌転移といった、より高次な生体現象にも関与していることが明らかになりつつある。

今回、独立行政法人理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターの平野伸二研究員と上村允人テクニカルスタッフ(高次構造形成研究グループ、竹市雅俊グループディレクター)らは、マウスをモデルにした研究で、OLプロトカドヘリンが線条体神経の軸索伸長や視床皮質系神経の軸索投射に必須であることを明らかにした。脳における神経回路形成メカニズムの一端が明らかになったといえる。この研究成果は、Nature Neuroscience誌に8月26日付け(イギリスロンドン時間)でオンライン先行発表される。

GFP標識された線状体(緑)を大脳腹側部の組織片に移植すると淡蒼球(赤)に向かって神経線維(水色)を伸ばすことから、この領域には線状体線維をガイドする機構があることがわかる。



発生中の脳において終脳の腹側部は、視床皮質神経(視床から大脳皮質へ投射する神経)や皮質視床神経(大脳皮質から視床へ投射する神経)の軸索に投射方向を指示する機能をもつと考えられている。終脳腹側部の線条体神経では、カドヘリンスーパーファミリーに属するOLプロトカドヘリンが多量に発現しているが、軸索の誘導機能との関連性については明らかでなかった。今回彼らは、OLプロトカドヘリンを欠損したマウスを作成し、終脳周辺の神経投射を詳しく解析した。すると、視床皮質神経や皮質視床神経の軸索が腹側終脳を通過しないなど、多くの異常が発見された。終脳腹側部では、線条体の軸索が正常に伸長せず、また、視床皮質系神経の軸索誘導に重要と考えられている淡蒼球の尾側部分も形成されていなかった。さらにin vitroの実験でも、OLプロトカドヘリンを欠損すると線条体神経の軸索が伸長しないことが確認された。これらの結果から、カドヘリンの一種、OLプロトカドヘリンが、線条体神経の軸索の伸長や、視床皮質系神経の軸索誘導に必須であることが明らかになった。

「本研究では、これまで機能が未知であったOLプロトカドヘリンが、皮質脊髄路、皮質視床路、視床皮質路、線状体黒質路など、大脳腹側部の神経回路の形成に関わっていることを明らかにできた」と平野研究員。「さらに、これらの神経投射に線状体線維が重要な役割を果たしていることを初めて示せたと思う」。 

* 視床皮質系神経は視床皮質神経および皮質視床神経の総称。


掲載された論文 http://www.nature.com/neuro/journal/v10/n9/abs/nn1960.html;
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[ お問合せ:独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター 広報国際化室 ]


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