独立行政法人 理化学研究所 神戸研究所 発生・再生科学総合研究センター

2011年6月22日


上皮細胞の頂端収縮を調節するメカニズム
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発生の過程では、上皮と呼ばれる1層の細胞シートが折れ曲がり、畳まれ、あるいは陥入するなどして、組織や臓器の立体構造をつくり上げていく。このような上皮の変形の一つの駆動力になっているのが頂端収縮(apical constriction)だ。上皮細胞は極性を持ち、シートの一方の面を頂端側、他方の面を基底側と呼び、それぞれ異なる性質をもつ。頂端側では、細胞膜を貫通する頂端結合複合体(AJCs, apical junction complexes)が細胞同士を強固に接着し、細胞の内側ではアクトミオシンケーブルと呼ばれる細胞骨格と連結している。このアクトミオシンケーブルが収縮することで、頂端側の細胞面積が縮小し、細胞シートの変形がもたらされる。

理研CDBの石内崇士研究員(高次構造形成研究グループ、竹市雅俊グループディレクター)らは、WillinおよびPar3と呼ばれるタンパク質が協調して、上皮細胞の頂端収縮を調節していることを明らかにした。これらのタンパク質は、頂端収縮の引き金分子であるROCKを抑制していることがわかった。この研究成果は英国の科学誌Nature Cell Biologyで6月19日にオンライン先行発表されている。

 

 

WillinとPar3の発現を共に抑制すると、頂端結合複合体(赤色の輪郭)からaPKCが消え、頂端収縮が誘発される。しかし、ROCKの発現を抑制すると(緑の細胞)頂端収縮が解除される。

 

ROCKは頂端結合の近傍でミオシンIIの軽鎖をリン酸化し、アクトミオシンケーブルの収縮を引き起こすことが知られている。石内らは、哺乳類の培養細胞を用いて、これまで機能が良く知られていなかったWillinの解析を行っていたところ、この分子が頂端結合付近に局在することがわかった。タンパク質同士の結合を調べる実験を行うと、興味深いことに、Willinは細胞の極性形成に関わるPar3と結合することが示された。そこで、WillinとPar3の機能的関係を調べるために、細胞内でWillinを高発現させる実験を行った。その結果、Par3の局在に変化は見られなかったものの、Par3と結合することが知られるaPKCの頂端結合への局在が増加していた。さらにタンパク質同士の結合を調べると、WillinもaPKCと結合することが確認された。彼らは、WillinとPar3の関係を引き続き調べたが、WillinのaPKCに対する機能にPar3は必要ないこと、Par3とaPKCの結合にWillinは必要ないことが示された。つまり、WillinとPar3はそれぞれ独立にaPKCに結合しているようだった。

次に、WillinとPar3の発現を抑制する実験を行ったところ、いずれの場合もaPKCの頂端結合付近への局在が減少し、両方を抑制した場合はaPKCの局在がさらに減少した。また、WillinとPar3を共に発現抑制した場合は、頂端側の細胞表面積が大きく減少し、頂端収縮が促進されていることが明らかになった。さらに、膜に局在するように操作したaPKCを発現させると、頂端収縮の促進が解除された。これらの結果は、WillinとPar3がaPKCを膜に局在させ、頂端収縮を抑制していることを示していた。

そこで、aPKCと頂端収縮を促進するROCKとの関係を調べることにした。aPKCはリン酸化酵素であることから、リン酸化によるROCKの機能制御を疑った。実際に、aPKC はROCKをリン酸化することが確かめられた。このROCKの局在を解析すると、リン酸化されていないROCKは頂端結合付近に局在するのに対し、リン酸化されたROCKは細胞質に留まる傾向が見られた。つまり、aPKCはROCKのリン酸化を介してその局在を制御し、これによって頂端収縮を調節していることがわかった。

これらの結果は、WillinとPar3が協調的に機能し、過剰な頂端収縮を抑制する機構を描き出している。竹市グループディレクターは次のようにコメントした。「Par3-aPKC複合体は細胞極性を調節していることが知られています。一方、Willinは、ショウジョウバエの細胞増殖制御に関わるExpandedと部分的相同性があるタンパク質です。これらの機能と、今回明らかになった頂端収縮における機能とがどのように関連しているのか、今後追求されるべき興味深い問題です」。



掲載された論文

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&dopt=Citation&list_uids=21685893

 


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